手を上げるキュビットくんゆるふわ量子コンピュータ
手を上げるキュビットくん

量子コンピュータの性能指標入門|Quantum VolumeとCLOPSで「本当の実力」を比べる

2026-08-28実践

#量子コンピュータ#ベンチマーク#Quantum Volume#CLOPS#実践

「うちの量子コンピュータは1,000量子ビットです」と聞くと、つい「量子ビット数が多い=すごい」と思ってしまいがちです。しかし実際には、量子ビット数だけを見て性能を比較するのは早とちりです。この記事では、量子ビット数だけでは分からない「本当の実力」を測るための指標であるQuantum Volume(QV)やCLOPSのしくみと、ベンダーを比較するときに見るべきポイントを、実践寄りにやさしく解説します。

この記事で分かること

  • 量子ビット数だけでは、誤り率や接続性の違いによって実力を比較できないこと
  • Quantum Volume(QV)が『総合的な計算能力』、CLOPSが『処理速度』を測る指標であること
  • 量子ビット数・QV・CLOPS・AQなど複数の指標を組み合わせて初めて、ベンダー間の実力を公平に比較できること

対象読者:複数の量子コンピュータベンダーを比較検討したいエンジニア・研究者の方

執筆:ゆるふわ量子編集部 最終更新日:2026年8月28日

なぜ「量子ビット数」だけでは比較できないのか

量子コンピュータのニュースでは「〇〇量子ビットのプロセッサ」という見出しが目立ちますが、量子コンピュータ企業比較でも触れた通り、量子ビット数だけの比較には大きな落とし穴があります。

🔢

量子ビット数が示すもの

  • チップに物理的に搭載されている量子ビットの数
  • 理論上、表現できる状態の広さの上限(2のn乗)
VS

量子ビット数が示さないもの

  • 個々の量子ビットの誤り率(忠実度)
  • 量子ビット同士がどれだけ自由につながっているか(接続性)
  • ゲート操作1回あたりの速度や、回路全体を実行する速さ
  • 実際に信頼して実行できる回路の複雑さ
⚠️

ノイズが多い量子ビットを100個集めても、使える計算能力は増えない

量子ビットの誤り率が高いと、回路が長く(深く)なるほど計算結果が信頼できなくなっていきます。極端に言えば、ノイズだらけの量子ビットを1,000個並べても、実際に正しく実行できる回路の規模はごく小さいままということがありえます。だからこそ、量子ビット数だけでなく「実際にどれだけ複雑な計算を正しくこなせるか」を測る指標が必要になります。

Quantum Volume(QV):総合力を測る指標

Quantum Volume(QV)クアンタムボリューム

IBMが2019年に提唱した指標で、「量子ビット数」「接続性」「ゲート誤り率」「クロストーク」など、性能を左右する複数の要素をまとめて評価する。「幅(量子ビット数)と深さ(ゲートの層数)が等しいランダムな回路を、どれだけ正しく実行できるか」を測定し、正しく実行できた最大サイズnを使ってQV = 2ⁿという形で表す。QVが大きいほど、量子ビット数だけでなくノイズの少なさや接続性も含めた「総合力」が高いことを意味する。

QVを測定する具体的な手順はおおまかに次のような流れです。

Quantum Volume測定の流れ(イメージ)

🎲

①ランダム回路を用意

幅・深さが等しいn量子ビットのランダムな回路を多数生成する

💻

②理想値をシミュレータで計算

ノイズのない理想的な条件での出力確率分布を古典コンピュータで計算しておく

⚙️

③実機で回路を実行

同じ回路を実際の量子コンピュータ上で何度も実行する

📊

④『ヘビーアウトプット』の割合を確認

理論上出やすいはずの出力(ヘビーアウトプット)が、実機でも十分な割合(目安2/3超)で得られているか確認する

🏆

⑤最大のnを探す

この条件を満たす最大のnを探し、QV = 2ⁿとして記録する

QVは量子ビット数が増えるほど測定自体の計算コストが指数関数的に増えていくため、数十〜100量子ビットを超えるあたりから測定そのものが難しくなるという限界があります。そのためIBMは近年、より大規模なシステム向けに「レイヤーフィデリティ(Layer Fidelity)」という新しい評価手法も導入し、QVと組み合わせて使うようになっています。

🔵

QV 128

IBMが2020年に達成したQVの当時の最高値

🟠

約3,355万(2²⁵)

Quantinuumが2025年に達成したQVの最高記録

📜

2019年

IBMがQuantum Volumeという指標を提唱した年

CLOPS:スピードを測る指標

QVが「どれだけ複雑な回路を正しく実行できるか」という総合力を示すのに対し、「どれだけ速く計算できるか」を測る指標が必要だという声を受けて、IBMが2021年に導入したのがCLOPSです。

CLOPS(Circuit Layer Operations Per Second)シーロップス

1秒あたりに実行できる「回路レイヤー操作」の数を示す速度指標。QVの測定に使うのと似た形式の回路群を、実機での実行だけでなく、回路のコンパイル・パラメータの更新・結果の読み出しといった一連の処理も含めた「実運用に近い条件」で計測する。QVが『できることの複雑さ』を測るのに対し、CLOPSは『それをどれだけ速くこなせるか』を測る、という役割分担になっている。

近年の変分量子アルゴリズム(VQEQAOA、量子機械学習など)は、パラメータを少しずつ変えながら同じ形の回路を何百回・何千回と繰り返し実行します。この「繰り返し実行の速さ」が実務上のボトルネックになりやすいため、CLOPSのような速度指標の重要性が増しています。

Quantum Volume・CLOPS・AQ……指標の違いを整理する

量子ビット数以外にも複数の指標が存在するため、混同しないよう整理しておきましょう。

指標何を測るか主な提唱者
量子ビット数チップに搭載された物理量子ビットの数各社共通
Quantum Volume(QV)誤り率・接続性を含めた「正しく実行できる回路の複雑さ」の総合力IBM
CLOPS回路を実運用条件でどれだけ速く繰り返し実行できるかIBM
AQ(Algorithmic Qubits)実際に信頼して実行できるアルゴリズムの規模IonQ
レイヤーフィデリティ大規模システム向けに、回路の層ごとの忠実度を推定する新指標IBM
💡

ベンダーが違えば指標も違う

Quantum VolumeはIBMが、Algorithmic QubitsはIonQが、それぞれ独自に提唱している指標です。第三者機関による統一ベンチマークも存在しますが、各社が自社の強みを示しやすい指標を前面に出す傾向がある点は念頭に置いておくとよいでしょう。

ベンダーを比較するときのポイント

複数の量子コンピュータベンダーを実際に比較検討する際は、次のような順番で確認していくと実態をつかみやすくなります。

ベンダー比較の実践ステップ

1️⃣

量子ビット数を確認

まずは規模感の目安として量子ビット数をチェックする

2️⃣

誤り率・接続性を確認

ゲート忠実度や量子ビット同士のつながり方(トポロジー)を調べる

3️⃣

QVやAQなど総合指標を確認

実際に信頼して実行できる回路の複雑さの目安を確認する

4️⃣

CLOPSなど速度指標を確認

繰り返し実行が多い用途では、実行速度も忘れずにチェックする

5️⃣

自分の用途で実際にベンチマーク

最終的には、自分が解きたい問題に近い回路で実機を試すのが一番確実

🌱

ポイント

公表されているベンチマーク数値は、あくまで「特定の条件でのめやす」です。自分たちが実際に解きたい問題(回路の形、必要な量子ビット数、繰り返し回数)に近い条件で、複数のクラウドサービス経由で実機を試してみるのが最も確実な比較方法です。量子クラウド徹底比較も参考にしてみてください。

まとめ

  • 量子ビット数だけでは、誤り率や接続性の違いにより量子コンピュータの実力を正しく比較できない
  • Quantum Volume(QV)は、量子ビット数・誤り率・接続性を含めた「総合的な計算能力」をQV = 2ⁿの形で示す指標で、IBMが2019年に提唱した
  • CLOPSは、回路を実運用に近い条件でどれだけ速く繰り返し実行できるかを示す速度指標
  • AQ(IonQ)やレイヤーフィデリティ(IBM)など、ベンダーごとに独自の指標もあり、複数の指標と自分の用途に合わせた実機ベンチマークを組み合わせて比較するのが実践的

もう少し詳しく(背景)

Quantum Volumeの測定で鍵となる「ヘビーアウトプット」とは、理想的な(ノイズのない)条件でシミュレーションした場合に、出現確率が中央値より高くなる出力の集合を指します1。実機での測定結果がこのヘビーアウトプットの集合に十分な割合(目安として2/3超)で一致していれば、その回路サイズは「合格」と判定されます。この判定を、回路サイズnを増やしながら繰り返し、合格した最大のnを使ってQV = 2ⁿを算出します。

QVは量子ビット数が数十を超えるあたりから、理想値をシミュレーションするための古典コンピュータ側の計算コストが指数関数的に増大し、測定そのものが困難になるという構造的な限界を抱えています2。IBMが2023年頃から新たに導入した「レイヤーフィデリティ」は、回路全体を測定する代わりに、回路を構成する要素(レイヤー)ごとの忠実度を個別に推定し、それらを組み合わせて大規模システムの性能を見積もる手法で、QVが測定しづらくなる規模のシステムを評価するために設計されています。CLOPSについても、単純な実行速度だけでなく、パラメータ更新や結果の読み出しといった変分アルゴリズムに特有のオーバーヘッドまで含めて測定する点が、単純な「ゲート速度」との違いです3

次に読むなら

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ量子編集部 最終更新日:2026年8月28日

Footnotes

  1. ランダム回路の出力のうち、理想的な(ノイズのない)シミュレーションでの出現確率が中央値より高いものを「ヘビーアウトプット」と呼ぶ。実機の測定結果がこの集合とどれだけ一致するかで、回路が正しく実行できているかを判定する。

  2. レイヤーフィデリティは、回路を構成する個々の操作の層ごとの忠実度を測定し、それらの積として大規模回路全体の性能を推定する手法。QVのように回路全体をシミュレーションで検証する必要がないため、より大規模なシステムにも適用しやすい。

  3. CLOPSの測定では、量子回路の実行だけでなく、パラメータの更新・回路のコンパイル・測定結果の読み出しといった、変分量子アルゴリズムの実行サイクル全体にかかる時間が考慮される。

🔥 この分野の最新トレンドをチェック →

あわせて読みたい