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量子通信・量子インターネットとは?盗聴できない通信のしくみをやさしく解説

2026-08-13入門

#量子コンピュータ#量子通信#入門

「量子コンピュータ」の話題はよく聞くけれど、「量子通信」や「量子インターネット」はあまり聞き慣れない、という人も多いのではないでしょうか。

実はこちらも、量子コンピュータと並んでとても重要な研究分野です。キーワードは「盗聴されたら、必ずバレる通信」。この記事では、そのしくみと世界の最新状況を、予備知識ゼロからやさしく解説します。

この記事で分かること

  • 今のインターネットの暗号は「将来の量子コンピュータ」と「盗聴に気づけないこと」の2つの弱点を抱えていること
  • 量子鍵配送(QKD)が、量子力学の性質を使って「盗聴されたら気づける」しくみを実現していること
  • 「量子インターネット」は実証実験の段階で、身近になるのはまだ先のこと

対象読者:量子通信・量子インターネットについて予備知識ゼロの方

執筆:ゆるふわ量子編集部 最終更新日:2026年8月13日

今のインターネットの弱点、知っていますか

ネットショッピングやオンラインバンキングが安全なのは、通信が「暗号化」されているからです。この暗号は、現在のコンピュータでは解読に天文学的な時間がかかる数学の問題(大きな数の素因数分解など)に守られています。

でも、この安全性には2つの弱点があります。

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弱点その1:将来の量子コンピュータに解読される可能性

量子コンピュータのショアのアルゴリズムを使うと、今の暗号方式を理論上、現実的な時間で解読できてしまう可能性があります。今すぐではありませんが、「今のうちに通信データを盗んで保存しておき、将来の量子コンピュータで解読する」という攻撃(ハーベスト・ナウ・デクリプト・レイター)も懸念されています。

⚠️

弱点その2:盗聴されても気づけない

今の通信は、光ファイバーを流れる信号をこっそり分岐させて読み取られても、送信側・受信側のどちらも気づく手段がありません。盗聴は「原理的に検知不可能」なのです。

弱点1への対策は「量子コンピュータでも解けない新しい数学的暗号(耐量子暗号)」を使うことで、これは量子コンピュータと暗号のセキュリティで詳しく扱っています。

この記事のテーマである量子通信が挑むのは、主に弱点2です。量子力学の性質を使って、「盗聴されたら必ず気づける」通信を実現しようとしています。

量子鍵配送(QKD)― 盗聴すると壊れてしまう通信

量子鍵配送(QKD)Quantum Key Distribution

光子(光の粒)1個1個に情報を乗せて「暗号の鍵」を送り合う技術。もし誰かが途中で盗み見よう(測定しよう)とすると、光子の状態が変化してしまい、送信側と受信側がその痕跡に気づける。

QKDのポイントは、「暗号文そのもの」ではなく「暗号を解くための鍵」を、量子の性質を使って安全にやり取りするところにあります。実際の通信データ(暗号文)自体は、今まで通り普通の回線で送っても構いません。鍵さえ安全に共有できれば、通信全体の安全性が保証されるのです。

なぜ盗聴に気づけるのか、その理由は量子力学の基本ルールにあります。

💡

鍵となる原理:量子複製不可能定理(no-cloning theorem)

量子力学には「未知の量子状態を、完璧にコピーすることはできない」というルールがあります。これを量子複製不可能定理と呼びます。盗聴者が光子の状態をこっそり読み取ろうとすると、その行為自体が量子状態を変化させてしまい、コピーを作って知らん顔をする、ということができません。結果として、盗聴の痕跡が通信のエラー率という形で必ず残ります。(「重ね合わせ」の性質も合わせて読むと理解が深まります)

具体的な手順のイメージを、代表的な方式(BB84方式)に沿って見てみましょう。

QKDのおおまかな流れ(BB84方式のイメージ)

📡

①光子を送る

送信者が、ランダムに選んだ「測定の基準(基底)」で0/1の情報を光子に乗せて送る

🔍

②受信者が測定

受信者もランダムに基底を選んで、届いた光子を測定する

🗣️

③基底を照合

どの基底を使ったかだけを、普通の回線で公開して照合する(値そのものは明かさない)

✂️

④一致した分だけ採用

基底が一致した部分だけを鍵の候補として残し、それ以外は捨てる

🚨

⑤誤り率をチェック

候補の一部を比較してエラー率を確認。想定より高ければ「盗聴あり」と判断して鍵を破棄する

エラー率が正常範囲なら、残った部分をそのまま暗号の鍵として使えます。盗聴者が割り込もうとした形跡があれば、その鍵は使わずに最初からやり直す、というシンプルながら強力なしくみです。

なお、光子同士を「量子もつれ」の状態にしておき、離れた2地点で同時に測定することで鍵を共有する方式(E91方式など)もあります。もつれた量子は、片方を測定するともう片方の状態も決まるという相関を持つため、これも盗聴があれば相関が崩れて検知できます。

「量子インターネット」は今のネットと何が違う?

QKDのような点と点の通信を、世界中に張り巡らせたネットワークにできれば「量子インターネット」と呼べるものに近づきます。ただし、今のインターネットとは目的も仕組みもかなり違います。

💻

今のインターネット

  • 0と1のビットで情報をコピー・複製しながら送る
  • 動画配信やSNSなど、大容量データのやり取りが主目的
  • 盗聴されても、その場では気づけない
  • 光ファイバーで信号を増幅しながら長距離化できる
  • 世界中に普及し、日常生活に不可欠
VS
🌐

量子インターネット(構想)

  • 量子ビットは複製できない(コピー禁止のルールがある)
  • 安全な鍵の共有や、量子コンピュータ同士の連携が主目的
  • 盗聴があれば量子状態が乱れ、原理的に気づける
  • 信号を単純に増幅できず、専用の「量子中継器」が必要
  • 現在は実験室・実証実験レベル

つまり量子インターネットは、「今のインターネットを置き換えるもの」ではなく、セキュリティや量子コンピュータ同士の連携に特化した、別の目的を持つネットワークだとイメージすると分かりやすいです。動画を見たり買い物をしたりする用途は、引き続き今のインターネットが担い続けると考えられています。

世界ではどこまで進んでいる?

量子通信は、まだ研究段階ではありますが、すでにいくつもの実証実験が行われています。

🛰️

2017年

中国の衛星「墨子号(Micius)」が北京・ウィーン間で量子暗号による大陸間ビデオ通話を実証

📜

1984年

QKDの代表方式であるBB84プロトコルが考案された年

🇯🇵

2026年

日本のNICT・JAXAが目標に掲げる衛星量子暗号通信の打ち上げ時期

  • 中国:2016年に打ち上げられた量子科学実験衛星「墨子号(Micius)」を使い、衛星経由でのQKDや、大陸を超えた量子暗号通信の実証実験を重ねてきました。地上の光ファイバー網でも大規模な量子暗号バックボーンの整備が進められています。
  • 日本:情報通信研究機構(NICT)が中心となり、光ファイバー網でのQKD実証や、次世代通信基盤「IOWN」とQKDを組み合わせる実験などを行っています。衛星を使った量子暗号通信についても、JAXAと連携して打ち上げに向けた開発が進められています。
  • ヨーロッパ:Quantum Internet Alliance(量子インターネット・アライアンス)が中心となり、量子中継器や量子ネットワーク機器の研究開発、実証ネットワークの構築を進めています。
🌱

ポイント

各国の実証実験は「特定の2地点間」や「限定された規模のネットワーク」でのものがほとんどです。世界中がつながった「量子版インターネット」は、まだ実現していません。

実現はいつ? 立ちはだかる技術的な壁

量子インターネットの実現には、いくつもの技術的な壁があります。

一番大きいのが、信号を「増幅」できないという問題です。今の光ファイバー通信は、長距離を送るときに信号を途中で増幅(コピーして強く)しながら届けています。しかし量子ビットは複製できないため、この方法が使えません。

そこで必要になるのが「量子中継器(量子リピーター)」です。量子もつれを区間ごとにつなぎ合わせることで、複製せずに遠くまで量子状態を届けようという技術ですが、実用化にはまだ多くの課題が残っています。また、量子状態は非常に壊れやすく(デコヒーレンス)、長時間・長距離にわたって保持すること自体が難しいという問題もあります。

⚠️

過度な期待は禁物

「量子インターネットがすぐそこまで来ている」という報道を見ることがありますが、実際には要素技術の実証実験が進んでいる段階です。専門家の間でも、本格的な普及には長い年月がかかるという見方が一般的です。

まとめ

  • 今のインターネットの暗号には「将来の量子コンピュータに解読されるリスク」と「盗聴されても気づけないリスク」の2つの弱点がある
  • 量子鍵配送(QKD)は、量子複製不可能定理という量子力学のルールを使い、盗聴されたら必ず気づける形で暗号の鍵を共有する技術
  • 「量子インターネット」は今のネットの代わりではなく、安全な鍵共有や量子コンピュータ同士の連携に特化した、目的の違うネットワークになると考えられている
  • 中国・日本・ヨーロッパなどで実証実験が進んでいるが、量子中継器などの課題が残っており、世界規模の普及にはまだ時間がかかる

もう少し詳しく(背景)

量子鍵配送の理論的な出発点は、1984年にベネットとブラサードが発表したBB84プロトコル1です。その後、量子もつれを使ったE91プロトコルなど、さまざまな方式が考案されてきました。QKDが安全とされる根拠は、量子ビットが持つ「重ね合わせ」の性質と、それを測定すると状態が変化してしまうという量子力学の基本的な振る舞いにあります2。これは量子ビットの基礎とも深く関係しています。

一方で、QKD自体は「鍵の共有方法」にすぎず、量子コンピュータの計算能力とは直接の関係はありません。「量子コンピュータへの対策」という文脈では、QKDに加えて、数学的に強化された耐量子暗号(PQC)という別のアプローチも進められています3。この記事で扱った量子通信・量子インターネットは、あくまでハードウェア(量子デバイス)を使ったアプローチである点を押さえておくと、混同しにくくなります。

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参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ量子編集部 最終更新日:2026年8月13日

Footnotes

  1. Charles H. Bennett と Gilles Brassard が1984年に発表した、QKDの基礎となるプロトコル。ランダムな基底で符号化・測定を行い、盗聴の有無を検出する。

  2. 量子力学では、観測(測定)という行為そのものが対象の状態に影響を与える。これは日常の直感とは大きく異なる性質で、QKDのセキュリティの根幹を支えている。

  3. 耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography, PQC)は、量子コンピュータでも解読が困難とされる数学的な問題(格子問題など)を使う暗号方式。QKDのような専用の量子デバイスを必要とせず、既存の通信インフラ上でソフトウェア的に導入できる点が異なる。

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