
ベルの不等式(CHSH)をQiskitで破る|量子の"非局所性"を数値で見る
2026-08-20 ・ 実践
「量子もつれは本当に"不思議"なのか」を数値で突きつけるのが CHSH不等式 です。古典物理(局所実在論)では相関値Sは必ず 2以下。ところが量子だと 2√2 ≈ 2.83 まで届きます。この記事ではQiskitで実験し、古典の限界を破るところを自分の目で確認します。
CHSHとは
もつれた2粒子を、それぞれ2種類の角度で測定し、その相関を組み合わせた値Sを計算します。
Sの意味
S = E(a,b) − E(a,b') + E(a',b) + E(a',b')。E は測定結果の相関。局所実在論では |S| ≤ 2 が数学的に証明できます。これを超えたら「古典では説明できない」証拠です。
準備
pip install qiskit qiskit-aer numpy
① もつれペアを測る回路
ベル状態を作り、測定角度を変えて相関を測ります。角度は測定前の回転(Ry)で表現します。
import numpy as np
from qiskit import QuantumCircuit
from qiskit_aer import AerSimulator
def correlation(theta_a, theta_b, shots=4000):
qc = QuantumCircuit(2, 2)
qc.h(0); qc.cx(0, 1) # ベル状態
qc.ry(2 * theta_a, 0) # アリスの測定角
qc.ry(2 * theta_b, 1) # ボブの測定角
qc.measure([0, 1], [0, 1])
counts = AerSimulator().run(qc, shots=shots).result().get_counts()
e = 0
for bits, c in counts.items():
parity = 1 if bits.count("1") % 2 == 0 else -1 # 00,11→+1 / 01,10→−1
e += parity * c
return e / shots
② Sを計算する
CHSHが最大になる古典破りの角度を使います。
a, a2 = 0, np.pi / 4
b, b2 = np.pi / 8, 3 * np.pi / 8
S = (correlation(a, b) - correlation(a, b2)
+ correlation(a2, b) + correlation(a2, b2))
print("S =", round(S, 3))
print("古典の限界 2 を超えた?:", abs(S) > 2)
出力は S ≈ 2.83、そして 古典の限界 2 を超えた?: True。理論値 2√2 ≈ 2.83 にほぼ一致し、古典では絶対に届かない相関をコードで再現できました。
実機だと2.83は出ない
シミュレータは理想値に近づきますが、実機ではノイズでSが下がり、2.83より小さくなります。それでも2を超えれば「量子性の実証」。実際のベル実験は2022年ノーベル物理学賞の対象になった重要テーマです。
まとめ
- CHSH不等式:局所実在論では |S| ≤ 2
- もつれ+巧妙な測定角で S ≈ 2√2 ≈ 2.83 に届く
- Qiskitでベル状態を測り、相関Sが2を超えるのを確認できる
- 量子の「非局所性」を数値で突きつける実験
もう少し詳しく(背景と理論)
ベルの不等式は Bell (1964) が局所実在論の帰結として導き1、実験可能な形にしたのが CHSH 不等式(Clauser, Horne, Shimony, Holt, 1969)です2。局所隠れた変数理論では相関値 S ≤ 2 が成り立ちますが、量子力学は最適測定で S = 2√2(チレルソン限界)に達します3。1980年代の Aspect の実験以降、抜け穴を塞いだ検証が進み、2015年には検出効率・局所性の抜け穴を同時に閉じた実験が成功、2022年にはこの分野にノーベル物理学賞が贈られました4。CHSH は量子暗号(デバイス非依存QKD)や乱数性の認証にも応用されています。
次の一歩 🌸
もつれの基礎は量子ビット超入門、状態の裏側はNumPyで作る量子シミュレータ、もつれを使う通信は量子テレポーテーションへどうぞ。
Footnotes
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Bell, J. S. (1964). "On the Einstein Podolsky Rosen paradox." Physics, 1(3), 195–200. ↩
-
Clauser, J., Horne, M., Shimony, A., Holt, R. (1969). "Proposed experiment to test local hidden-variable theories." Phys. Rev. Lett., 23, 880. ↩
-
量子力学が到達できる上限 2√2 ≈ 2.828 はチレルソン限界(Cirel'son, 1980)と呼ばれる。理論上の非局所相関にはさらに強いもの(PR箱、S=4)も考えうるが、量子では実現しない。 ↩
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2022年ノーベル物理学賞は Aspect・Clauser・Zeilinger に、ベル不等式の破れの実験とその応用に対して贈られた。 ↩